絶滅寸前こだわり商品No.14

 アドバルーン



まったく見なくなったというわけではないが、年に1〜2度見かける程度のものがある。
昔ながらの
紅白で丸いアドバルーンだ。私の住む足立区でも環七を車で走っていると
たまーに見かけることがあり、ついうれしくなってしまう。
"そんなもん、全然、知らなぁ〜い"という人のために補足すると、写真のようなもので
空気よりも軽い
ヘリウムガスを注入した巨大な風船(直径2.5m)の下に、これまた
巨大な垂れ幕を付けてそこに宣伝を書いて空に浮かべたものだ。もちろん地上と気球と
はロープで接続されている。

    

全盛期は
昭和30〜40年代でデパートやスーパーの開店、バーゲンセール会場では
これでもか、これでもか、、、と怒涛の勢いで上がっていたように思う。
こちらの写真の様子では、アドバルーンというよりもデパートから胞子が発生
しているかの如くで、よくロープがからみあわなかったもんだと感心してしまう。
このようにあちらこちらのビルから立ち上がり、大空にぽかりと浮かび風に漂う姿は、
まさに
高度経済成長期の『のろし』の様なものであったのではなかろうか。

    

アドバルーンは
大正5年(1916)に 東京の銀星アド社という会社が広告の気球として
作った日本独自のアイデアで生み出されたのだ。
ちなみにこの頃の時代はというと、大正8年に「初恋の味」カルピスが発売され
大正10年に松下電気製作所で「ふたまたソケット」が発売されたというような時代である。


かの有名な
226事件でもクーデターを起こした青年将校が自分たちの主張を
知らせるために、アドバルーンが活躍したというからすごい話だと思う。
さらにはかの有名な仮面ライダーでも、第55話は「ゴキブリ男恐怖の細菌アドバルーン」
題してアドバルーンで戦うというからすごい話だと思う。(笑)


昭和30〜40年代はといえば、ようやくテレビが普及しだした頃で、広告といっても
新聞のチラシが主流で、
チンドン屋さんがチンチンドンドンやっていたし、アンビリー
バボーなネタとして、セスナ機で空からビラを撒いている時代だ。
そして当然、高層建築なんかほとんどなかった頃だからアドバルーンは、価値のある
"広告塔"であった。
当時、はすぴーは小学生であったが、駅前のスーパーから浮かぶアドバルーンの数を友人と
数えたことが懐かしい。あっちのスーパーでは7つ上げていだぞ。いやあっちでは9つだと
競い合ったもんだ。(相当、暇だったようだ)
日曜日にはチラシを握り締めた母に連れられて、アドバルーンを目指して買い物にも
よく出掛けた。日本中が元気だった高度成長期の街のシンボルといったところだろう。

        

さて、アドバルーンが激減してしまったのはなぜだろうか?
シロウトの私でも思いつくのは、高層ビルの林立で空を奪われてしまい、アドバルーンが
目立たなくなり、
宣伝効果が低下したこと。
広告媒体が多様化され、アドバルーン掲揚に伴う費用よりも安く宣伝効果の良いものが
登場したこと。
(インターネットは最たる例)
要するに時代の流れが変わったことによる衰退といったところだろう。


前述の銀星アド社でアドバルーンの製作と掲揚に携わった田中博さん(現在69歳)と
いう人は故郷の三重県上野市で「中部アド株式会社」という会社を設立したそうだ。
田中さんによれば、一番盛んだった頃は
1日100本上げることはざらだったけど、
今じゃ、多くて10本程度とのこと。最近では広告宣伝というよりも、景気づけや
「珍しさ・懐かしさ」から注文されるといった妙な現象だそうだ。

    
球の形を平面上に展開し、接着剤で貼り合せる。昔ながらの手仕事らしい。

「アドバルーン」で検索してみると意外とヒットするが、その多くはイベント会場の
室内装飾バルーン、エアーアーチ、オリジナルのバルーンなどの製作がほとんどで、
昔ながらの紅白の気球は少なかった。さらに驚いてしまったのは、
高架線の架け替
え工事や気象観測用
などにアドバルーンの技術が活かされていたということだ。

絶滅するか否かのはすぴー的見解として、いわゆる昔ながらの紅白のアドバルーンは
本来の広告宣伝としての役割ではなく、
景気づけと懐古趣味的に細々と生き続けて
いくと思われる。また時代の流れを反映しつつ、気球にこだわることなく、
デコレーションとしてアドバルーンはかたちを変えて生き続けるのではなかろうか。

        
もはやこれをアドバルーンと呼んでいいのかっ!?       ↑こっちは許してあげよう  

 中部アド株式会社
三重県上野市鉄砲町2387番地12号
TEL 0595-24-1531
FAX 0595-24-1532

 

(原稿:2002.6.23)


 
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